すぐ役に立つことは、すぐに役立たなくなる

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銀の匙 という随筆があります。中勘助の自伝的小説、随筆、です。中勘助の「銀の匙」といえば、元灘高校の名物国語教師、故 橋本武先生の授業で知られます。橋本武先生の国語の授業は、中学の3年間をかけて、中勘助の『銀の匙』を1冊読み上げる「『銀の匙』授業」で有名です。
 
2013年9月に101歳でお亡くなりになりましたが、先生の究極の「スローリーディング」は、「すぐ役に立つことは、すぐに役立たなくなる」「国語力は学ぶ力の背骨である」とし、戦後、教科書を使わず本作品を授業に用い、一冊を3年間かけて読み込む授業で貫かれました。
 
たった200ページの小説を、3年かけて読み解く授業。横道にそれながらも、潜在するテーマに、じっくり向き合うことを「型」とし、本質を深く掘り下げる力、異なった価値観を知ること、既存の価値観に疑問をつこと、自ら答えを導く力を養うその授業は、「非効率の中の本質」を知る、究極の生きた授業であったと思われます。
 
「スピードが大事なんじゃない。すぐ役に立つことは、すぐに役立たなくなります。何でもいい、少しでも興味をもったことから気持ちを起こしていって、どんどん自分で掘り下げてほしい。そうやって自分で見つけたことは君たちの一生の財産になります。そのことはいつか分かりますから。」
 
こういう名人偉人も、年々静かに旅立たれていく。出会うべくして逢えることが「運」ならば、逢えるうちに、自らご縁をつなぎに参りたいと、ますます思うきょうびです。