紫陽花

文学作品の中に植物の登場を見つけると、ほかのどんな名文句を見つけた時より、胸が高鳴りときめくのが自分でわかります。
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その季節の目に入った群生や、華やぎ移ろい朽ちる様が、彼らにはこんな風に映ったのかと、その心象に感じ入り、時間は止まる。
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そのささやかな感動を誰かに伝えたくて、2012年、花以想の記をはじめました。
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萩原朔太郎は詩の中で
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ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思い出ばかりはせんなくて
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と自らの心を紫陽花の花にたとえました。
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泉鏡花は『森の紫陽花』で
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玉簾の中もれ出でたらんばかりの女のおもかげ、
顏の色白も衣の好みも、紫陽花の色に照榮えつ。
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と書いています。
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とりわけ日本アジサイは、西洋のそれに比べると華やかさでは劣るけれど、その野趣味は日本人独特の心情をあらわすように慎ましく、陰影ある花色は、心の綾となって気持ちをうるおします。
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この、どの時代においても変わらない紫陽花の成りが、「七変化」という花の異名と相反していているのも面白いなと眺めるの。
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今日もいちりんあなたにどうぞ。