紫陽花

 
与謝野晶子の歌集「落花抄」には花だけを詠んだ歌が100載っています。春夏秋冬、四季をおって花ごとに、その合間に花についての随筆があり、巴里での東京での草花への愛着が垣間見れてうれしくなります。
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そのなかで「がくの花」とあるのが紫陽花なのだけど、歌はたった2首しかありません。
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・大空の覗くと見れば水色の萼の咲くなり雑林の中
・がくの花魂か魄かは知らねどもその一つをば失ひて立つ
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ちなみに万葉集でも、紫陽花の歌は2首しかない。ついでを言えば、源氏物語や枕草子に紫陽花は一つも記されていない。
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こんなに美しい花なのに、紫陽花をモチーフにした作品は多くなく、それは歌に限らない。きっとそれはこの花の、さだめがない色移ろいを、忌み嫌ったからだと思うけど、
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そんなあいにくの風潮が、この花への観照を遠ざけたのなら、その時代の人たちを、なんだか気の毒に思いました。