カキツバタ 花言葉「幸せがくる」

20140508-3.jpg
靄深くこめたる庭に下り立ちて朝のすさびに杜若剪る 子規
かきつばた薄藍いろに咲き出でぬ人を思ひて身の細る頃 晶子
沼水にしげる眞菰のわかれぬを咲き隔てたるかきつばたかな 西行

好い季節になりました。旅もよし、散策もよし、じっとしているには惜しく、まったく陽気にうかされるままの5月。先日、思い立ってたずねた南青山の根津美術館にて、尾形光琳の「燕子花図」を見ました。総金地の屏風に、濃淡の群青と緑青だけで描きだされた燕子花の群生は、同所庭園に咲く杜若とおなじ、それはそれは眼に心に染み入る美しい菖蒲色でした。
伊勢物語に業平の故事で「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」という歌があります。これは、三河の八つ橋に咲くこの花を見た男が、着慣れた唐衣のように親しんだ妻を都に置いてきたことを、この美しい花を見たび愛おしく思いだしはるばる来た旅路の遠さと、都への切なる思いが込み上げる、と詠んだものです。先の尾形光琳の絵も、この歌を画題にしたといいます。
「かきつばた」の名は、花の汁をこすり付けて染色する「書き付け花」が転じたとも言われ、紫紺の燕(つばめ)がひるがえる様に見えることから「燕子花」とも書きますね。昔は、大風と火事を防ぐと言われ、わら屋根の上によく植えられたそうです。よく混同されますが、乾いた土地でもに群がって自生するのが「あやめ」で、池沼の湿地に咲くのが「かきつばた」。アヤメ科のなかでは一番初めに咲くことから「一初(いちはつ)」とよばれます。
花菖蒲にくらべ、どこかひなびた趣があるのが杜若の紫です。紫の花は、四季を結び、古代と現代をつなぐ花と思います。すみれは春を謳歌し、フジは春を惜しみ、桔梗は秋を呼びます。その合間に咲く菖蒲の群生、山に紫陽花、軒先に朝顔。ああ好い季節になりました。旅もよし、散策もよし、5月はうかされて旅に出たって許されましょう。なにせ心を奪われまいとしたところで、花が山が、おいで今よと呼ぶのです。古代と現代をつなぐ花 杜若なり。
いちはつの 花咲きいでて 我目には 今年ばかりの 春ゆかんとす 正岡子規