冬の扉をあける花 春へ

20140227-2.jpg
今年はなんだか山茶花が長い。ちりちりと散華する秋からの花をながめては、椿はまだかしら、とのん気にしていたら、気が付いたときには先日の雪ですっかりやられていた。霜に焼けたツバキはいたいたしく、もっと早くに出会いたかったと悔やんで時すでに遅しの残冬。深い緑におおわれて、くっきりと色の映えた椿と山茶花では、やっぱり趣が全然ちがいます。だからなお惜しい。
ツバキの花は日本が原産、藪椿と雪椿があります。厚味のある、つやつやと美しい濃緑の葉をもつからして、「艶葉木」「厚葉木」ともよばれます。堅い材、種子から油、艶のある葉はかつて煙草にと、あますことなく役に立つ多用樹であり、古くから人々の生活の中に四季をとわずになじんできました。
原生種として、日本で五千年の年月を過ごしてきた椿には野生の匂いさえ感じますが、そうはいえ、木枯らしの風が啼くひまひまに咲くのは、やっぱり山茶花だし、春隣りの雪が似合うのはやっぱり椿だと思うのです。
冬の扉をあける花も、まもなく春へ
芸術でも、アレクサンドル・デュマ・フィスが1848年に書いた長編小説「椿姫」でその名をよく知られます。原題は「La Dame aux camelias」であり、「椿の花の貴婦人」と訳されていますが、1853年にジュゼッペ・ヴェルディが発表したオペラ「椿姫」の原題はLa traviata(ラ・トラヴィアータ)、直訳は「道を踏み外した女」を意味します。ちなみに、原作の主人公は「マルグリット」で、オペラの主人公はスミレを意味する「ヴィオレッタ」に名前が変わっています。
 「この世の命は短く、やがては消えてゆく。ねえ、だから今日もたのしくすごしましょうよ!」とヒロインのヴィオレッタは歌い上げます。
パリの華やかな社交界と、彼女を取り巻く人物描写、ヒロインの切ない恋心、かなしい別れ。悲劇でも音楽は明るく、華やかで力強さを失わないヴェルディならではの特質たる音楽構成は、主人公ヴィオレッタの個性とともに、椿の花の印象も位置づけました。そしてツバキの花言葉「完璧な魅力」「誇り」 「私は常にあなたを愛します」 がさらにこの花の魅力を裏付けます。
冬も名残り、椿ばかりに非ず、次に桃、桜、辛夷と続く春なのに、椿五千年 は そうそう語りつくせません。