いづれ菖蒲か杜若

EZ098_L.jpgここで言う「菖蒲(あやめ)」は「花菖蒲(はなしょうぶ)」をさし、端午の節句で邪気払いに使う「菖蒲(ショウブ)」とは別の植物。

花菖蒲(あやめ)も杜若(かきつばた)も水際~泥湿地に生えます。これらはいづれもアヤメ科。杜若(かきつばた)は花菖蒲と異なり、中央を縦に通る主脈が膨れていないのが特徴。初夏、花茎の先端に咲く濃紫の花が、紫紺のツバメがひるがえる様に見えることから「燕子花(かきつばた)」とも書きます。

同類の「鳶尾草(いちはつ)」は「一初」とも書き、アヤメ類の中でも一番早くに咲き出すが所以。こちらは杜若よりも、ややひなびた趣。

ちなみに花菖蒲はあくまでも「はなしょうぶ」。あえてアヤメと呼ばない方が混乱しないかもしれません。

では本来の「あやめ」とは?

「渓蓀(あやめ)」とも書きますが、上記の類とは違い、山野や草原など乾いた場所に自生する多年草です。

そして端午の節句、しょうぶ湯に使う「菖蒲(ショウブ)」。こちらはサトイモ科の植物でまた別物。海外でも薬用として伝えられています。独特の快い香りがあるため、この植物を教会や家の門を飾る花輪に使ったり、わざわざ床に撒いて足で踏みつけ、その強い芳香を楽しんだそうです。

菖蒲の節句の日。仙台を訪れた芭蕉は画工の加右衛門と知り合い名所を案内されました。餞別には紺の染め緒の草鞋までもらい、それに感動した芭蕉が、染め緒の紺色から邪気を払うあやめ草を連想し、草鞋の緒にあやめ草を結び、感謝と道中の無事を詠んだのがこの一句。ちなみにこのあやめ草とは「ショウブ」のこと。

   あやめ草足に結ばん草鞋の緒  松尾芭蕉