生きとし生けるもの

DJ086_L.jpg「花は人間のように臆病ではない。花によっては死を誇りとするものもある。」岡倉天心は記しました。

「流れゆけ、流れゆけ、流れゆけ、流れゆけ、生の流れは逝いてとどまることがない。死ねよ、死ねよ、死ねよ、死ねよ、死はすべてのものに来る」弘法大師は言いました。

「生」において「変化」だけが「永遠」であり、命あるものは必ず「死」を迎える。花や自然の儚さによせる日本人の美意識はどこまでも奥深く。

前出の岡倉天心は「茶の本」にこうも残しています。
「花をちぎる事によって、新たな形を生み出して世人の考えを高尚にする事ができるならば、そうしてもよいではないか。
我々が花に求むるところは ただ美に対する奉納を共にせん事にあるのみ。我々は「純潔」と「清楚」に身をささげる事によってその罪滅ぼしをしよう。こういうふうな論法で、茶人たちは生花の法を定めたのである。」

猛暑で花を飾ることさえ気が引ける夏。ためらわず植物を身近におき、愛で、嗅ぎ、食し、自分のかたちで脳裏にその色香を残してみてはどうでしょう。こんな盛夏にこそ。

花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、
生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける 紀貫之