ホームシックな香り

3617401_s.jpg蓼食う虫も好き好き、のたでの葉は千年以上前から日本で使われていた薬草。食あたりや消化にも効能があるとされます。青い香りとピリッとした味が特徴ですが、やや苦味もあるので、この苦味さえも好む虫がいるということで「人の好みはさまざま」という喩えに使われます。

タデの葉は芯を取り、塩少々入れてすりつぶし、酢でのばしたものはタデ酢と呼ばれ、アユの塩焼きをはじめ、白身の焼き魚に添えられます。好みで数粒のご飯を入れて磨り潰すと粘りが出るので、「ちょいつけ」のバリエー

ションに(^^)

この夏の酷暑もまだしばらく続きますが、食卓では今こそ日本の香味植物が大活躍。しそ、みょうが、青ゆず、さんしょう、しょうが、にっき、はっか、わさび、ねぎ。麺にもお豆腐にもお魚にも、刻んだ薬味をどっさりのせて、果汁を絞って、夏の香りを三昧にいただきます。

青ネギは、ハーブのチャイブスにも似た香り。刻んでクリームチーズに混ぜても、新鮮な味わい。しょうがの鼻から喉に抜ける香りと刺激は、そのまま体全体にしみわたり冷房で冷えた体を温めてくれます。紫蘇は赤シソならシロップにすれば色も楽しめますよね。

子供の頃、夕餉近くなると、母に「山椒とってきて」「紫蘇10枚ね」と自宅の庭先にお使いに出されたものでした。
今ではスーパーで買うのが当たり前になっていますが、ずいぶんぜいたくな薬草が身近にあったんだなあと、懐かしく思い出します。

しかしあの頃はただただ「変な味」でしかなかったのに、いつのころからか、狭い庭の土の匂いと共に、体中で郷愁の香りがわき立つのを感じるのですから、香りの記憶とは不思議なものですね。

日本にはこんなにも多くの香味植物があるというのに、今やはっかはミント、と言った方が身近だし、にっきもシナモン、とよんだほうが「ああ、あの匂いね」と思いだしやすいかもしれません。でもやっぱり、佐久間ドロップで最後に引いたアタリ(はずれ?)のあれは、まぎれもなく「はっか味」でしたし、子供のころ、祖母のカバンにしのばせてあったのは地味な包みのニッキ飴でした。

日本のハーブ、なんてちょっと洒落たことを言ってみましたけど、やっぱり香味野菜、薬草、薬味、といったほうが、日常的でずっと身近。なによりこの暑さにあって萎えた身体にガツンと効きそうな感じがするのは私だけでしょうか。

   若こうして奴豆腐の好みかな 久保よりえ