リコリス 花言葉「誓い」

■ 黄色の彼岸花と「鍾馗蘭」の名の由来
秋になると、真っ赤な彼岸花があちこちで目を楽しませてくれます。その中でふと黄色い花を見かけると、「あれは本来、なんという名前なのだろう?」と首をかしげる方も少なくないでしょう。調べてみると、その花には「鍾馗蘭(しょうきらん)」という難しい名が記されていることがあります。
鍾馗とは、中国から奈良時代に伝わった「魔よけの神様」であり、端午の節句など五節句の風習とともに日本でも親しまれてきました。力強く邪気を払うその名が花につけられた背景には、きっと「守護」「厄除け」といった祈りが込められていたのではないでしょうか。
■ 黄色い彼岸花「ショウキスイセン」
花の分類をたどると、ラン科にも「ショウキラン」と呼ばれる植物があります。黄色い彼岸花はそれとは別種で、正しくは「ショウキスイセン」と呼ばれる花。一般的な呼び名は「リコリス」です。
鮮烈な赤い彼岸花とよく似た姿をしていますが、色が変わるだけで印象は大きく異なります。赤がどこか妖艶で孤高の雰囲気をまとうのに対し、黄色のリコリスは明るく、どこか気品すら漂わせる佇まい。思わず立ち止まり、誰かに「見てほしい」と伝えたくなるほどの存在感を持っています。
■ 故郷を思わせる花
黄色のリコリスは、もともと九州南部に自生していた花とされます。以前、枕崎出身の知人が東京で咲くリコリスを見て「故郷の花だ」と語ったことを思い出しました。花はただ美しいだけでなく、土地や人の記憶と深く結びついているものです。遠い地に咲く花に故郷を重ねるとき、人は懐かしさや安心感に包まれるのでしょう。
■ 花が色を変えるとき
同じ彼岸花の仲間でも、色が違うだけで心に与える印象は大きく変わります。真っ赤な彼岸花には「別れ」「彼岸」という連想がつきまといますが、黄色のリコリスには陰鬱さがなく、むしろ希望や明るさを感じさせます。
花は、色や咲く場所、季節によって、私たちの心にさまざまな物語を呼び起こします。出会うほどに、その奥深さや楽しさを思い知らされるのです。
■ さいごに
真紅の彼岸花が凛として咲く季節に、鮮やかな黄色のリコリスに出会うと、思わず足を止めたくなります。花の持つ力とは、こんなふうに心を動かし、記憶を呼び覚まし、新しい物語を添えてくれるものなのかもしれません。
今日もいちりんあなたにどうぞ
リコリス 花言葉「誓い」

インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。