ローズマリー ─ 思い出に寄り添う香り

Posted on 2025/05/13

すっと立ちのぼるような香りを放つローズマリーは、庭の片隅でも、小さな鉢の中でも、はっとする存在感をもっています。針のように細く、艶のある濃緑の葉。その合間から顔をのぞかせる青紫の花は控えめながらも気品があり、どこか懐かしさを感じさせます。


この植物には、「記憶」「思い出」「変わらぬ愛」といった花言葉が託されています。ヨーロッパでは古くから、人生の節目を彩る大切な場面、結婚式や葬儀などに使われてきました。結婚の誓いとして、あるいは別れの時に「忘れない」という想いを託す植物。それがローズマリーです。

文学のなかでも、特別な意味をもって登場する、ローズマリー。


たとえば、シェイクスピアの悲劇『ハムレット』に登場するオフィーリア。心を病んだ彼女が、花々を手に取り、ひとり語るように言います。

「ローズマリーよ、これは思い出のしるし。どうか、私を忘れないでください」

父を失い、愛する人にも心が届かないままにあるオフィーリアのこの言葉は、花が持つ記憶の象徴としての役割を、私たちに強く印象づけます。

また『ロミオとジュリエット』では、ジュリエットの葬送に際して「ローズマリーをこの美しい亡骸に添えて」と語られます。愛の誓いを交わした花が、そのまま別れの儀式にも使われるという、西洋文化におけるローズマリーの二面性が印象的です。


さらに『冬物語』では、「冬の間も色と香りを保つ花」として、年長者に贈られるシーンがあります。記憶と恩寵を象徴するハーブとして、人の心に長く残る存在として描かれています。

このようにローズマリーは、ただの香り高いハーブなだけではありません。誰かを想うとき、過去の出来事を心にとどめたいとき、あるいは変わらぬ気持ちをそっと伝えたいとき、この植物がそばにあるだけで、人々は気持ちを整え、安らぎをおぼえてきました。

その清々しい香りに包まれるだけで、過去の記憶がふとよみがえったり、懐かしい気持ちになったり、誰かとの時間、大切にしまっていた想い、そんな感情をそっと呼び覚ます、不思議な力をもった植物、ローズマリー。

暮らしの中においても、料理に癒しにクラフトにと、とても役立つハーブです。

今日もいちりんあなたにどうぞ。