夕焼け

「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」
『日の名残り』カズオ・イシグロ
「夕焼け」は夏の季語。そのことからも夏を象徴する景色のひとつとわかりますが、春にみる夕焼けは、どこか伸びやかな雰囲気があり、色にも春ならではの朧げが混じり、夏にはない柔らかさがあるような気がします。
昨日の夕方、電車の車窓のむこうに夕焼けをみつけました。一日中の曇天から、ようやく目覚めた暁のような空、晩春の花色にみるような深いオレンジ色に、しばし惹きつけられました。

思いがけず出会った、授かりもののような遠空を眺めているうち、なんだか祝福されてるように思えたのは、他ならぬこちらに望みがあったからですが、それを見透かされた気恥ずかしさよりも、夕焼けだけが知っているという安堵、胸にしまっていた喜びが、静かにしずかにあふれて、今日の終わりはいい終わり、そんな気持ちになりました。
日が暮れる前のひとときが、1日で最も素晴らしい時間。って、本当ね。The Remains of the Day、今日もいちりんあなたにどうぞ。
プリムラジュリアン 花言葉「青春の恋」

インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。