3月
花の雨

晴れた日と雨の日があって
ひとつの花が咲くように
悲しみも苦しみもあって
私が私になってゆく
星野富弘
今日は雨。久しぶりに朝からずっと、絹糸のような細い雨が、しゃらしゃらしゃら、と降っています。近いうち、また冷たさに触れる日が来るとはわかっていますが、でも今日の雨は、ああ確かに春になったんだと、じんわりさせる温度ある、優しい雨です。
日本語には、雨を表す言葉がたくさんあります。今の季節なら、花びらが雨に濡れることで風情をかもしだすのを「花雨」といい、また、紅く咲き匂う花々に降り注ぐのを「紅雨」といいます。
春に花といえば「桜」ですが、ちょうど今ごろは、こんな紅い椿によく出会い、また雨の糸をわけて濡れそぼつ椿を見ると、この雨の名前を思います。
それほどに、雨の中に咲く椿は見目が好く、今にも匂いだちそうな情感、色気を感じさせるというのに、香りがありません。一見バラほどの主張がある花なのに、天は二物を与えないとは、こんなことを言うのでしょうか。
雨をみて花にない匂いを感じ、花をみて雨にない色を感じる。こんな心遊びをするのも、椿が雨の似合う花だからでしょう。またこれも、春ならではの季感かもしれませんね。
今日もいちりんあなたにどうぞ。
ツバキ 花言葉「控えめな優しさ」

インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。