ギンバイカ(マートル)と花の古典

西洋に伝わる古い詩や伝説にたびたび登場する植物にギンバイカ(マートル)があります。漢字で書くと「銀梅花」です。
見ての通り梅の花に似ています。ただ「ギンバイカ」ときいてもピンとこない人も多いかもしれません。
日本ではあまりなじみがありませんが、西洋ではマートルといい、月桂樹やオリーブなどと同様に、古くから祭りや儀式で用いられていました。
たとえばギリシャでは、ギンバイカは一年中緑を保つことから不死・不滅の象徴とされ、縁起物として市場や祭りなどで売られていたといいます。ドイツでは今日でも結婚式の飾りとして使われます。イングランドでもそうですね。
その風習はあらゆる植物や花や葉を儀式に用いたローマ人から、ユダヤ人、ドイツ人へと伝承されたとのこと。ただしボヘミア人がこの花を、祝いの儀式にではなく葬式に使ったのは、死者を包む緑が不死を象徴するからだそうです。
このような古い花の伝説を載せている文献に、チャールズ.M. スキナー著『花の神話と伝説』があります。この類の本は私が知る限りでも数多の翻訳本がありますが、この本の原著は1925年版とのこと、その内容からしてもかなりの古典です。
植物名だけでも結構な数があり、もはや辞典ともいえる価値があります。ただ、このての古い書籍によくある特徴なのですが、本を開いてまず目をとおす目次、その並びにまったく秩序がありません。花は網羅はされているものの、アルファベット順にさえなっていないので、どんな花が載っているかは目を凝らして探すしかありません。
しかしそれは原著に忠実だからなのあって、そこから読み取れるのはスキナー自身が大いなる自然主義的な人間だったからではないかと、個人的には推測します。
近年の本の編集、機序のとどいた文献になれていると、身じろぎするほど難解です。ですが、それゆえに粉骨砕身された翻訳者のご苦労もうかがい知れますし、このような文献を残してくれたことで、私たちも植物への興味が深まるのですから、先人のご尽力には感謝をいだくばかりです。今日もいちりんあなたにどうぞ。
ギンバイカ 花言葉「祝福」

インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。