10月
クチナシ 花言葉「私は幸せもの」

すんだことを誘う花があります。あまりよい思い出ではないのに、その匂いは鼻腔のむこうにまだあって、甘い匂いほどに苦みがあって、呼ぶまでもなしにそれが胸のあたりまでおりてきて、また思い出させます。梔子の花がそれでした。子どもの頃、来客を待つ昼下がり、やや不機嫌であった母が、庭のそれを玄関の一輪挿しに置くなりに、あの重く甘ったるい匂いが家中に充満するのです。悪くはないのですが、普段しもしないその儀式が、母の機嫌も相まって子供には余計にけだるく、以来どうにも好めない花だったのです。それが今こそ、これほどに母を想う花はなく、胸に下りてきた匂いを、ギュッと手放したくない想いにかられるのでした。季節はずれのクチナシに。
何だかなつかしうなるくちなしさいて 種田山頭火
クチナシ 花言葉「私は幸せもの」
インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。