縁(ゆかり)の色 紫

紫色の花が、古代の日本でどれほど高貴な存在であったかについては、多くの文献に記録されています。その代表的なものの一つが『枕草子』です。平安時代に成立したこの随筆では、紫色の花や物が「めでたくこそあれ」と讃えられており、紫色がいかに特別な存在であったかが伝わってきます。紫色は単なる色としての美しさにとどまらず、精神的な価値や、社会的な地位を象徴するものとして深く根付いていたことが伺えます。
紫色とその象徴性
紫色は、平安時代の日本では「縁(ゆかり)の色」とも呼ばれ「縁」の象徴でもありました。この「縁」の意味には、深い人間関係やつながりが含まれており、単なる色以上のものとして人々に認識されていたようです。
紫色を愛でることは、他者との深い繋がりを求める心や、そこから生まれる絆を大切にするという文化的な価値観とも密接に結びついていたようです。また紫の染料は非常に貴重で、一般庶民には手に入れることができない色であったため、その色を纏うことができるのは貴族や上流階級の人々に限られていました。
紫色は、平安時代における品位や優雅さを象徴しており、特に女性にとっては、その色を好むことが高貴さの証とされていました。紫色を身に着けることで、その人が高貴な身分であることをあらわしていたのですね。
紫草の歌とその深層
『古今和歌集』に収められた歌には、紫草に対する深い愛情が込められています。特に有名なのが、次の歌です。
「むらさきの一本(ひともと)ゆえに武蔵野の草はみながら あはれとぞみる」
この歌は、紫草一株に対する深い愛情を歌っていますが、その背後には重要な文化的背景があります。紫草はかつて、武蔵野の地に群生しており、自然の中でその姿を見かけることができたといいます。この歌は、その一本の紫草への愛情が、武蔵野のすべての草に対する愛おしさへと広がっていくというテーマを持っています。しかし、この歌が単なる自然賛歌にとどまらないのは、紫草が象徴する「縁」と、和歌の中に込められた人間の深い感情の表現が関わっているからです。
またこの歌には更に深い意味があり、この一本の紫草を恋人にたとえ、その女性に縁のあるものは、なんでも愛おしい、と詠まれているのだそう。和歌の世界は、実に奥深いですね。このように、和歌の中で紫草はただの花ではなく、人の心情や愛情を表現するための深い象徴として位置づけられていたのです。

紫色の持つ力と花言葉
紫色の花には、その高貴さや神秘性が色に反映されています。例えば、デュランタという花もその一例です。デュランタの花言葉は「あなたを見守る」とされています。これもまた、紫色が持つ優しさや穏やかさを象徴していると言えるでしょう。この花言葉は、まるで遠くから大切な人を見守り続ける存在のような、温かさと安らぎを与えてくれます。
デュランタの花が持つ花言葉は、紫色の花に込められたメッセージとも重なります。紫色は、守護や慈しみ、そして深い愛情の象徴として、古代の日本でも重要な意味を持っていました。そのため、紫色の花は贈り物としても非常に喜ばれ、相手を思いやる気持ちを伝える手段としても大切にされてきたのです。

紫色の花の現代における意味
今日では、紫色の花は多くの場面で使われています。結婚式や誕生日などの祝いの場でも見かけることが増え、その神聖さや優雅さが際立っています。子供たちにも「ラベンダー色」「ラプンツェルの色」として人気がありますよね。
紫色は精神的な豊かさを象徴する色として、心の平穏を求める人々にも愛されています。心を落ち着け、ストレスを和らげる効果があるとされるため、現代でもリラクゼーションや癒しを求める場面でよく使われる色です。
さらに、紫色は死者への敬意や追悼の気持ちを表現する場面でも用いられます。お供えの花や弔事において、紫色の花が選ばれることが多いのは、その神聖さや深い意味が込められているからです。紫色の花は、亡き人への尊敬と感謝の気持ちを込めて贈られることが多いのです。
おわりに
紫色の花が古代日本でどれほど高貴な色とされていたかを振り返ると、その色が持つ深い意味や象徴性に改めて気づかされます。『枕草子』や『古今和歌集』に見られるように、紫色はただの色ではなく、そこに込められた人々の感情や絆の象徴であり、深い意味が込められていました。現代においても、その美しさと神秘性を失うことなく、私たちの心に深く響きます。デュランタのような花が持つ花言葉「あなたを見守る」にも表れるように、紫色の花は今もなお、私たちに大切な思いを伝え続けているのです。

この記事の執筆者
フラワーギフト専門店 花以想 Hanaimo 店主 鈴木咲子
インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ式フラワーデザインに出会い、ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店でドイツ式フラワーデザインを習得。2002年 通販サイトHanaimo開業。
趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。