11月
そこはかとなく
「そこはかとなく」とは「なんとはなしに」「とりとめもなく」という意味合いで使われますが、室町時代に日本に来たポルトガル人が残した日葡辞書には、ソコハカトナクについて「無限に」と訳されていたそう。よってこの言葉には相反するふたつの意味があります。
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神無月 風に紅葉の散るときは
そこはかとなく物ぞかなしき 藤原高光
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これは11月の風に吹かれて紅葉が散るようすは、なんとなく物悲しい思いがする、という歌。けれど急にきた冬の初めの冷たさを思えば、もしやすると「限りなくもの悲しい」だったのではないかしら。そんなことを考えて、
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徒然草のあれも、なんとなくでは無しに「あとから後から書きつけるほど、不思議な世界に引き込まれていく」と言いたかったんじゃないかしら、なんて。今日もいちりんあなたにどうぞ。
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つれづれなるままに
日ぐらし硯に向かひて
心にうつりゆくよしなしごとを
そこはかとなく書き付くれば
あやしうこそもの狂ほしけれ
-吉田兼好『徒然草』
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カラー 紫花言葉「夢みる美しさ」
インテリア系専門学校に進学後、進路転向し花の世界に。ドイツ人マイスターフローリストに師事。2000年に渡独、アルザス地区の生花店に勤務し帰国後、2002年 フラワーギフト通販サイトHanaimo開業。趣味は読書、文学に登場する植物を見つけること。高じて『花以想の記』を執筆中。2024年 5月号『群像』(講談社)に随筆掲載。一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格。