朝顔 花言葉「彼女はあなたを愛してた」

更新日:2025.07.03 公開日:2013.07.02

七月、蝉の声が静かな朝を震わせる頃、涼やかな風をまとう花が顔をのぞかせます。
朝のほんのひとときだけ、清らかな姿を見せては、日が高くなる前にそっとしぼむその花に、どこか儚い美しさを感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな“朝の顔”──朝顔について綴ってまいります。

朝顔は、夏の風物詩としても親しまれている花です。
小学生の観察日記にも登場するほど身近でありながら、その名に秘められた意味や、歴史の奥深さには、大人になってから気づかされることも多いものです。

花名:朝顔(Asagao/Morning glory)
学名Ipomoea nil
科名:ヒルガオ科(Convolvulaceae)
属名:サツマイモ属(Ipomoea)
原産地:熱帯アジア(インドや中国)
開花時期:7月~9月頃

早朝に咲き、昼前にはしぼんでしまう朝顔。
その一日限りの命のように見える花は、まるで「今」という瞬間の尊さを教えてくれているようです。

  • はかない恋
     朝に咲いて昼にはしぼむその性質から、恋の儚さを象徴する花言葉です。
  • 愛情
     つるが支柱に絡みつくようすから、誰かに寄り添い、支え合う愛をイメージしています。
  • 結束
     植物の絡み合う姿から、人と人とのつながりや協力、絆を表しています。
  • 固い絆
     恋人や家族との深い結びつきを表す、やさしさを感じる言葉です。
  • 彼女はあなたを愛してた
     過去形の愛を象徴する切ない言葉。一瞬の美しさに想いを託したような意味合いがあります。

  • Love in vain(報われない愛)
     実らなかった恋や、片思いを表現する花言葉です。
  • Affection(愛情)
     やわらかで親密な想いを含んだ言葉。家庭的な愛にも当てはまります。
  • Mortality(死・儚さ)
     一日のうちにしぼむ性質から、人生の無常や死の象徴として扱われることもあります。
  • Brief love(短い恋)
     束の間だったけれど確かに存在した恋の記憶に、そっと寄り添う言葉です。

  • 青の朝顔:誠実、冷静な愛
  • 赤の朝顔:情熱的な愛、活力
  • 白の朝顔:清らかさ、純粋な心
  • 紫の朝顔:高貴、奥ゆかしさ、秘めた想い

朝顔には、奈良時代に中国から薬草として渡来したという歴史があります。
当初は「牽牛子(けんごし)」という種子を薬として用い、緩下剤として珍重されていました。

また、その儚く美しい性質から、恋の象徴としても扱われてきました。
たとえば『源氏物語』に登場する女性「朝顔の君」は、その名のとおり控えめながら気高い美しさをもつ人物として描かれています。
朝にだけ咲くその花のように、ひかえめな恋の情景を重ねる文化が、古くから日本にはあったのかもしれません。

朝顔に
釣瓶(つるべ)とられて
もらい水
――加賀千代女

江戸時代の女性俳人、千代女が詠んだ一句。
朝顔が釣瓶(井戸のつるべ)に絡みついてしまったため、それを取らずに隣家から水をもらう──という、自然とともに暮らす慎ましさを表しています。
花を大切にする心が、日々の暮らしのなかにしっかりと息づいていたことを感じさせてくれますね。

花言葉「彼女はあなたを愛してた」。
この言葉が持つ過去形の響きに、どこか胸の奥が静かに波立つのを感じます。
伝えきれなかった想い、言葉にできなかった時間。それでも、確かにそこにあった愛情のかたち。

「貴方の沈黙は、人生が私のものであったと答えている。
そして私は、後悔もせず悲しみもなく死んでいくけれど、
私に許された瞬間を、より美しくすることを心がけてきたのよ。
だってそれは、あまりにも短いものだから。」
――フローレンス・コーツ『The Morning Glory』より

この詩のことばに、朝顔の生き方が重なって見えます。
ほんの短い朝のひとときに、その美しさを惜しみなく咲かせる花。
それはまるで、「今、ここで、あなたと出会えたこと」そのものを咲かせているようです。

私たちが誰かに花を贈るとき、それは“いま”という瞬間を誰かと分かち合う、静かな対話なのかもしれません。
朝顔の花姿のように、ただまっすぐに、言葉では足りない想いを花に託して。


この夏、朝の涼やかな光のなかで、ふと足をとめ、花と向き合ってみてはいかがでしょうか。
そしてどうか、大切な誰かのことを、ひととき想ってみてください。